更新日:2025年4月11日
カルトナージュとは、カルトンと呼ばれる厚紙で作った箱に布や紙を張って美しく仕上げたもの。
19世紀に生まれたヨーロッパの伝統工芸です(注1)。
注1:本記事の公開当時(2016年頃)より、長らく「18世紀」と記載しておりました。ここに訂正するとともに、お詫び申し上げます。
「カルトナージュ(cartonnage)」はもともとフランス語で、仏日辞書を引くと「ダンボール」や「ボール紙製造」という訳語が出てきます。これは一般的な訳語ですが、日本語で言うところの「紙器(=厚紙などを用いて印刷・成形加工をした包装容器)」にあたる言葉でしょう。
「カルトナージュ」を手工芸の分野で訳すとすれば、さしずめ「厚紙細工」という意味になるでしょう。
「布箱」や「茶箱」と呼ばれることもあり、ハンドメイド講座などを見ても名称が統一されているわけではないようです。
実は、その起源にも諸説あります。フランス語ですから、特にフランスとのつながりが深いことはうなずけますが、これからそのうちいくつかの説をご紹介します。
大航海時代にアジアから運ばれたお茶の入れ物として、金属製の缶などよりも、香りがつかず湿気を調整するために紙で作られた箱が重宝されたことに由来するという説があります。
当時、お茶は高級品であったため、上流階級のティータイムにふさわしいよう、箱にも美しい布を貼ってお出ししたのです。このため、現在でもカルトナージュは「お茶箱」「布箱」などと呼ばれることもあります。
これがフランスの貴婦人たちの間で流行し、現在のカルトナージュになったと言われています。
もう一つの有力な説は、 19世紀半ばに南フランスのヴァルレアス地方で床屋を営んでいたムシュー・ルヴォルが考案したというものです。
「FAIRY'S
FINGERS」を主催するカルトナージュ作家のキャロル・ムニエによれば、ヴァルレアス地方は養蚕業の非常に重要な中心地で、発明家でもあったムシュー・ルヴォルは、中国や日本から欧州までの長い道のりを、蚕卵(産卵、カイコの卵)を外部から守りながら呼吸できる箱を作るよう依頼されて発明したのです。
用途は、蚕とまゆを入れるためというもので、繊細な品物の品質を保とうとして開発されたという点で、茶箱との共通点があります。
フランスのヴァルレアスという地名は、大正時代の日本の養蚕業界新聞にも登場*1 することから、養蚕業が行われていたとみて間違いがないでしょう。
参照)*1...中外商業新報, 1918.8.8-1918.8.9(大正7):世界の蚕況 (上・下)
「養蚕の繭(まゆ)を入れるための箱」という第2の説について、日本語で触れている資料として、香代子ビジャー著の『カルトナージュ: カルトンをベースにしたヨーロッパの伝統的手工芸』をご紹介します。
カルトナージュは、ヨーオッパ生まれの手工芸です。遠い国で生まれた手工芸ですが、日本人にとってもなじみやすいものではないでしょうか。
紙製の箱に和紙を貼った小物は、京都のおみやげ屋さんでもよく見かけます。
日本人は、高温多湿な夏や乾燥して寒い冬の日には、障子や襖といった紙製の道具によって、快適に過ごせるよう生活の工夫をしてきました。湿気をコントロールする手段としての和紙製品、茶箱、文箱は日本の伝統でもあります。
なにより、紙と布で作るカルトナージュは、ちりめんや手ぬぐい生地など、日本の素材とも相性が良いです。
着物のリメイクとして手芸をされる方も多くいらっしゃると思いますが、そのひとつの方法としてカルトナージュはいかがでしょうか。
Z=Graceはこれまでに何点か自作のカルトナージュ作品を外国人の友人にプレゼントしてきました。アンティーク着物地や手ぬぐい、友禅和紙で作ると特に喜ばれます。
欧州文化の華やかさに加え、日本古来の素材や、様々な国の文化をルーツにもつ素材を利用して、カルトナージュをもっと楽しんでいきたいと思います。
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Cartonnage making, texts and photos
by Ai Tabata